自然エネルギー政策プラットフォーム JREPP
REN21
自治体グリーン政策の窓
環境エネルギー政策研究所

~ 持続可能な低炭素社会の実現を目指して~

2008年6月

「2050年自然エネルギービジョン」(PDF)

※ 「 2050 年自然エネルギービジョン」実現に向けた政策提言」(PDF)

【趣旨】

地球温暖化の影響が様々な形で表面化する中、気候変動対策に関するCOP15(コペンハーゲン)での枠組み合意を目指し、日本はG8洞爺湖サミットの議長国として、主要排出国に対し「2050年までに全世界の温室効果ガス排出半減」への合意を呼びかけている。本検討では、その日本が自らの目標を持ち、気候変動対策にどれだけの貢献が出来るか、とりわけ「イノベーション」の核となる自然エネルギーに注目して、2050年までの展望(ビジョン)を提示することを狙ったものである。この「2050年自然エネルギービジョン」の大要は、以下のとおりである。

  • 2050年に低炭素社会を目指す上で、自然エネルギーに注目して、日本で 2050年までに最大限導入しうる可能性を検討した。
  • 検討に当たっては、原則として、各自然エネルギー関係団体から導入可能性やその考え方、必要な政策などを提示していただいた。
  • 自然エネルギー以外の供給想定や全体の需要想定は、基本的に国立環境研究所の「2050年低炭素社会シナリオ」をベースにして、検討を行った。

なお、今回のビジョンの報告は「中間報告」としての位置づけであり、来年のCOP15に向けて、供給サイドおよび需要サイドの両面とも、さらに検討を進めていく予定である。

本「2050年自然エネルギービジョン」検討プロジェクトには、以下のとおり自然エネルギー関係団体や研究者の方々に多大なご協力を頂いた。

  • 自然エネルギー毎の導入目標値は、以下の各団体が試算した数字を使用している。
  • 風力:日本風力発電協会・風力発電事業者懇話会
  • 太陽光:環境エネルギー政策研究所(太陽光発電協会ビジョンに基づき推計)
  • 太陽熱:ソーラーシステム振興協会
  • 地熱:日本地熱学会・日本地熱開発企業協議会
  • 小水力:全国小水力利用推進協議会
  • バイオマス:環境エネルギー政策研究所
  • 研究者として、国立環境研究所の藤野純一氏、日本建築学会の三浦秀一氏・外岡豊氏のご協力を頂いた。また自治体の立場で東京都環境局から議論にご参加頂いた。
  • 全体の取りまとめは環境エネルギー政策研究所(ISEP)の責任で行っており、誤謬等についての責任はISEPにある。

 

【前提条件】

本ビジョンの検討にあたり、以下の前提条件をベースにした。

  • 水力、太陽光/熱、風力、地熱、バイオマス等の自然エネルギーによる供給を最大限利用する。
  • 自然エネルギー比率を50%以上とし、CO2排出量を70%以上削減(2000年比)する。
  • 国立環境研究所等による2050日本低炭素社会シナリオのシナリオBをベースにエネルギー需要を考える。
  • 化石燃料(石炭、石油、天然ガス)および原子力の利用は必要最小限に限定する。

 

特に自然エネルギーによるエネルギー供給と需要の考え方は以下のとおりである。

  • 電力供給
    • 供給ポテンシャルを最大限生かし、大規模な風力発電、地熱発電を導入し、水力やバイオマス、太陽光も積極的に導入する。
    • 既存の電源(とくに石炭、石油、原子力)は、段階的に削減することを想定した。
    • 調整電源として天然ガスと揚水発電を主力とし、残る石炭火力は高効率を想定した。
    • 系統全体の調整力は、現状の体制やシステムから抜本的に変わっていることを想定した(需要側の調整、需要側の分散蓄電池、日本全体での柔軟な需給調整、自然エネルギー側の出力調整、国際間連系など)
  • 分散電源
    • 熱供給も同時に可能な分散型電源を積極的に導入する(バイオマス、地熱など)。
    • 太陽光発電を分散電源の主力としてほとんどの建物に導入する。
    • 産業分野の分散電源は、国立環境研究所のBシナリオをベースとする(製紙など)。
  • 熱利用
    • 家庭や業務部門では太陽熱、バイオマス、地熱、高効率ヒートポンプを積極利用
    • 産業部門の熱供給・需要は、国立環境研究所のBシナリオをベースとする。
    • 家庭部門の熱需要のうち、暖房については高断熱化が進むことを想定
  • 燃料利用
    • 脱化石燃料を達成し、国際的な持続可能なバイオマス利用(第2世代エタノール)を仮想定としてバイオ燃料を導入する。想定としては電力や水素シェアの拡大もあり得る。

 

【2050年の電力供給の姿】

2050年には国内電力需要の60%以上を自然エネルギーにより供給している。【図1】には、エネルギー源別の系統電力および分散電源を合わせた電力量の比率を示すが、太陽光、バイオマス、水力、風力、地熱などの日本国内の自然エネルギーを用いた発電により、国内電力需要の67%を賄う。系統電力に対して、太陽光やバイオマス発電などの分散電源の普及が進み、日本全体の電力量需要についても年間8,366億kWhまで減少する(2000年10,427億kWh)【表1】。【図2】には、2000年および2050年のエネルギー源別の電力量と発電設備容量を示す。

図1 図2
【図1】2050年のエネルギー源別の電力量の割合              【表1】 2050年の電力供給
図3 図4
【図2】 2000年および2050年の年間電力量および発電設備容量

 

【2050年の熱需給の姿】

2050年には国内熱需要の約30%を自然エネルギーで賄う【図3】。【表2】に示すように部門別では、家庭部門および業務部門は電力利用分を除き100%自然エネルギーを利用しているが、産業部門は、国立環境研究所Bシナリオとほぼ同じ熱需給を想定しているため、自然エネルギー比率は12%程度に留まる。【図4】に示すように家庭部門では、太陽熱や地中熱の利用が進み、業務部門ではバイオマスや地熱が積極的に利用されている。産業部門の熱需要については、石炭や石油の利用が大幅に減少し、ガスへの燃料転換が進んでいると想定しているが、さらなる産業構造の転換や代替エネルギーへの移行が必要とされる【図5】。

図5 図6
【図3】2050年のエネルギー源別の熱利用量の割合 【図4】2050年の部門別の熱利用の内訳

図7  図8
【図5】エネルギー源別の熱利用量       【表2】2050年の部門別の熱利用量図9

【2050年の燃料需給の姿】

高効率化やモーダルシフトにより燃料需要を70%以上削減(国環研Bシナリオ)。脱化石燃料を達成し、バイオマス(1072PJ相当)を燃料に全面的に利用することを仮に想定した。

  • バイオマスの燃料利用(バイオ燃料)に関する前提・想定
  • 今回のシナリオでは、簡便のために、国産バイオマスは基本的に電力・熱で利用し、輸送燃料に必要なバイオ燃料は全量を輸入で賄うことと想定したが、現実には、当然のことながら、国産バイオ燃料や輸入バイオマスを発電に用いることは生じうる。
  • また、バイオ燃料の国際取引をめぐって、食糧や生態系、途上国の開発に影響を与える懸念もあるため、今回の想定はあくまで「仮」という位置づけである。
  • とはいえ、今回のシナリオは、輸送燃料に関して、燃費向上とモーダルシフトなどで極めて大胆な削減が織り込んである。それでもなお、必要な代替燃料は相当量に上るため、「持続可能な輸送燃料」に関する現実的なオプションを必要としている。今回は、それを「輸入を主体とする認証された第2世代エタノール」と仮想定した。
  • 本シナリオでは、バイオ燃料を主オプションに位置づけたが、今後の技術進化によっては、電気自動車や水素を排除するものではない。
  • プラグインハイブリッド・電気自動車・水素などの考え方
  • 今回は、スウェーデンの輸送燃料シフトのシナリオを参考にする。
  • 徹底的な(ストックでの)燃費向上で半減以下を目指す
  • 第2世代エタノール(セルロースからの合成エタノール)への転換を中心に考える 。

※全量輸入を想定

  • 電気自動車(+プラグインハイブリッド)も想定
  • 水素(燃料電池)は現時点では考えない
  • 本ビジョンでは、バイオ燃料を主オプションに位置づけたが、今後の技術進化によっては、電気自動車や水素を排除するものではない。

【2050年のCO2排出量と一次エネルギー供給】

2050年には日本国内のエネルギー起源のCO2排出量を75%以上削減(2000年比)。一次エネルギー供給のほぼ60%を自然エネルギーで賄い、かつエネルギー自給率50%以上を達成している(表3)。図6には、エネルギー源別の一次エネルギー供給量を2000年と2050年の比較として示す。図7には、2050年の一次エネルギー供給量のエネルギー源別の比率を示す。

【表3】 2000年および2050年の評価指標
図10

図11  図12
【図6】 2050年の一次エネルギー供給量              【図7】 2050年の一次エネルギー供給量比率

【自然エネルギー源別の供給シナリオ】

自然エネルギーの供給ポテンシャルを最大限考慮した各自然エネルギー関係団体による個別のシナリオをベースとしてこの「2050年自然エネルギービジョン」の供給側は構成されている。【表4】には、後述する各自然エネルギー団体からの試算により自然エネルギー源別に2050年の電力の供給シナリオの概要を列挙する。また、【表5】には、自然エネルギー源別に2050年の熱の供給シナリオの概要を列挙する。


【表4】2050年の自然エネルギー源別の電力に関する供給シナリオ


発電 方式

2050年の電力の供給シナリオ

中小水力発電

1000kW以上1万kW以下の流れ込み式で450万kW、1000kW未満を渓流部分で280万kW、用水路などで22万kWの新設を想定。既設を合わせて2760万kW

地熱発電

地熱開発の重点地域に周辺有望地域などを加えたドリームシナリオを採用。還元熱水や温泉の余熱を利用した温泉発電を加え、1178万kWを想定

太陽光発電

「太陽光発電産業自立に向けたビジョン」の2030年導入目標値8280万kWをベースに、全住宅の75%に導入される高い導入目標1億4267万kWを想定

風力発電

陸上風力は2006年度までの導入ペースを維持し2030年には710万kW、洋上風力を2011年から導入を開始し、2050年には陸上と合わせて5000万kWを想定

バイオマス発電

バイオマスとして木質、農業、畜産、廃棄物(食品、汚泥)などの供給ポテンシャルを考慮し、発電は1588万kWを想定。熱利用可能な分散電源を中心に構成

【表5】2050年の自然エネルギー源別の熱に関する供給シナリオ


熱供給方式

2050年の熱の供給シナリオ

太陽熱

住宅の76%で太陽熱利用が可能と想定し、戸建・集合住宅で給湯205PJ、暖房19PJ。業務用施設の76%で太陽熱が利用可能と想定し、給湯57PJ、暖房11PJ。

地熱

温泉などからの従来の直接熱利用に加え、地熱発電還元熱水や温泉発電を利用する。さらに、温泉利用代替による燃料削減効果も合わせて113PJを想定

バイオマス

木質系バイオマスなどを直接燃焼し、産業用ボイラー、家庭や業務の暖房・給湯に利用。廃棄物などからのバイオガスを厨房に利用する。全体で715PJを想定

以下、各自然エネルギー関連団体による2050年の自然エネルギーの供給に関する試算結果を示す。

  •  【中小水力発電】: 全国小水力利用推進協議会
  • 【地熱発電/熱利用】: 日本地熱学会&日本地熱開発企業協議会
  •  【太陽光発電】: 環境エネルギー政策研究所(協力:太陽光発電協会)
  •  【風力発電】: 風力発電事業者懇話会、日本風力発電協会
  •  【太陽熱】: ソーラーシステム振興協会
  •  【バイオマス発電/熱利用/燃料】: 環境エネルギー政策研究所

【参考資料】

※シンポジウム「自然エネルギー政策会議」 (2008 年 6 月 3 日 )

http://www.isep.or.jp/event/080603sympoGEN_ISEP.html